NEKO-TSU:2000年10月の「昨日まで」。

10/17
会社でヘルメットが話題を呼んでいる。といっても工事現場でおじさん達がかぶってる黄色いやつじゃなく、学校指定の白いヘルメットだ。
ねこぞうの働いている会社は新宿にあって、当然そこの人たちはもうずっと長い間都会で生活している。田舎で生まれ上京してきた人もいれば、東京しか知らない人もいる。そんな人たちが地方へ出張に出るたび目にするのが、輝く白いヘルメット。

田舎では多いと思うけどねこぞうの通った中学校では、自転車通学をする場合、制服に白いヘルメットを被るという校則があった。校章入りのヘルメットに、クラスと名前が書かれた木札をサドルの後 ろに付けて通学する。当時はみんなそうだったから意識しなかったが、短いスカートに流行の髪型で、定期片手に電車に乗る東京の中学生に比べるとダサさは半端ではない。東京住まいのおじさんたちが、「田舎の代名詞」と言ってほほえましく思うキモチも分かろうというものだ。

しかし徳島の中学生とて、その状況に甘んじていたわけではない。毎朝校門で先生と生活委員の張る検問、そこだけ何とか誤魔化せばいいのだ。かくてヘルメットを学校近くで脱ぎ着する輩が出没したの だが、残念なことにこれはあまり上手いやり方ではなかった。まずどうしてヘルメットを被るのがイヤかというとそれが「格好悪い」からなのだが、なぜ「格好悪い」かと問われればそれは「田舎くさい」からなのだ。ここで大事なのは、この町が「田舎である」という一点である。彼らはそこまで考えが回ってはいなかった。田舎に於いては「おばさん」が、その恐るべき着眼点と洞察力でもって町を一手に掌握し、絶えず動向を見張っている。大抵、そういう革新的な学生の背後では以下の様な会話が交わされているのが常であった。

「丸岡さんとこの子が、なんやヨコイさん(「横井商店」の意)の前でヘルメット脱 ぎよったで」
「いやじゃあ。丸岡さんの子いうたらうちの子と一緒に学校行っきょるでぇ。きっと 真似しよるわよ」

これが高じてちょっと学校に言うとかなあかんのちゃうん、となるわけである。新しい時代を拓くはずであったスポーツ刈りの少年は一週間の自転車通学禁止を申し渡され、一件は幕を閉じたかに見えた。 しかし転んでもただでは起きないのが田舎の中学生である。彼は確かに次の日自転車で学校へは来なかった。その代わりに学校の手前にある学習塾に自転車を止め、もちろんヘルメットなどどこ吹く風で、悠々と校門をくぐってきたのだ。これには先生方も言葉を 失い、彼は小さな勝利を勝ち取ったのだった。

思えば田舎において、「自由」とか「変革」というのはこれ以上ないタブーであり、まだその精神に浸かりきっていない子供は戦うことを余儀なくされた。町も人も「もうこれでいいじゃないか」と柔らかい圧力をかけてくる――特に悪いことはない。毎日ごはんが食べられて、それなりに幸せなはずだ、と。ちょっとぐらい格好悪くても安全なんだから我慢すればいい。その象徴があのヘルメットだったのだ。

だが、ほんの少し革命を起こした少年が現れた後、朝、自転車の前でヘルメット片手に悩むようになった。
どうやってごまかそう。大通りで被ってなかったら見つかるから、手前の農道で被ればいいかな。あんまりきちっと被ってるといかにも真面目そうで格好悪いから、ちょっと斜めに被ろう、とか。

だから会社でヘルメットの話が出るたびに、おじさん達が田舎の子供を純朴だと目を細めるたびに。

困ったように笑うしかないのだった。

10/19
誰かに対して好意を抱くのは、その相手の意外な面を見たときだと聞いたことがある。確かにそれはそうかもしれない。厳格な上司がふと見せた幼い娘の写真。茶色い髪にピアスの若者が老人に席を譲る瞬間。おとなしそうな女の子が男子のからかいに毅然と言い返した時。どれもとても魅力的に映る。
それまでただの「厳格な上司」だった人が子煩悩な父親の顔を見せたり、家でのちょっとだめなお父さんの素顔が覗いたとき、その人をひどく人間的でいいなあ、と思う。これはけっこう納得のいくことだ。
単純に趣味や嗜好の面だけでもそういう意外性は面白い。友達のそんな部分を知っているのも、何かその人だけの宝物を少し分けて貰ったような気がして嬉しくなる。昨日だったか掲示板にも書き込みがあったけれど、ねこの友達のブンちゃんは「アゴなしゲン」と格闘ゲームが好きだ。でも彼女に初めて会った人にはそれはなかなか分からないだろう。ブンちゃんは確かに真面目そうではあるし、実際カシコいし、ほっそりとしてかわいらしくもあるが。
だがそのカバンの中にはアゴなしゲンの最新刊が入っているのだ。
それを思うと何だかみんな騙されている中で、自分だけホントの事を知ってるようで楽しい気持ちになる。「童話物語」の作者である向山が、実はホラー映画が好きで、サザンのシングルは必ず買っていることもその類に洩れない。完成されたキャラクターがほんの少しバランスを崩している、そんなところがやっぱり面白いのだ。
ねこぞうに関して言うならば、ダーク系が好きだしハードロックが好きだし、映画だったらホラーは当然好きだ。だが同時に、実は、実は。
ラブコメがすきだ!
フレンチ・キスとかプリティ・ブライドとか! メグ・ライアンが出てるやつ、ジュリア・ロバーツもいいしキャメロン・ディアスもいい! ベスト・フレンズ・ウェディングも観てしまった! かわいいし、ばかばかしいし、いかにもラブラブV な感じが楽し過ぎる!

……たぶんこのサイトに来る人以外で、ねこぞうのこの趣味を知ってる人はまずいないと思う。それでこその意外性ではあるのだが、…………やっぱり言えないことにはそれなりの理由があるものだなあ、と今更のように気が付いた。



ここまでは10月のNEKO-TSUです。
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