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2008年05月07日

豚肉の話

変わったことなどそうないが、豚肉を食す日々である。何故豚肉かというと話は長くなるのだが、二年程前に手に湿疹が出来た。左手の指から始まって、手のひら、甲まで水疱が広がり、これが非常な痒みを伴うとあって大変悩まされたのが、近所の漢方医師にかかってひと月ふた月で幸いなことに治癒に至った。

それから時は過ぎ、そんなことなどすっかり忘れて日々を送っていた折に、軽い風邪を引いた。そこでどういうわけかこの湿疹が復活し、発熱のせいもあってか猛威を振るい、腕の半ばまで腫れ上がる程の症状を引き起こした。自身も一度は治った経験があるものだから、当時と同じに対処すればよいと気軽に考えていたのでこれには面食らい、熱を持った患部を氷の塊で冷やしつつ、「痒い痒い」と二日ほど泣きながら眠れぬ夜を過ごした後で、件の漢方医師の元にもう一度出向いて行った。

そこで出てきたのが豚肉である。医師によると、この腫れは前回の湿疹とは異なる症状で、元は同じウイルスかもしれないが、処方は別にしなければならないと言う。そして通常の皮膚科なら、まず表面の痒みと皮膚の治療にステロイドの塗り薬などを用いるところ、食事といくつかの漢方薬で様子を見るとのことである。こちらとしては、もう痒みが余りにひどくて、正気を保っていられない程であったから、そんな悠長なことはと言いたい気持ちもあったが、「まず患部の腫れを取りたい。この腫れは水が溜まって熱を持ち、むくんでいるのだから、熱を追い出すところから始めたい」という医師の言葉を信じ(何せ前回も治っている)、一週間分の漢方薬と、それから食事の心得をいくつか受けて対処することになった。漢方薬は三種で、内二つは大まかに言って体内の細菌を駆除するもの(これらは前回の処方と同じ)、一つは身体の熱を下げ、利尿を促すものだった。そして食事の方はというと、

・菓子類は厳禁(糖分が体内に熱を溜めるらしい)
・鶏肉、魚は禁止(アレルギーの可能性もあるので念のため避けろとのこと)
・卵、乳製品も禁止(同上の理由)
・南国系のフルーツ、バナナ等も禁止(同上の理由)
・お茶、ジュースなどの水分を控える(身体の水を出す必要があるので)

要するに、穀類と野菜ぐらいしか食べられないというわけである。そこまで食事に執着の強い方ではないが内心これにはがっかりとし、そうですかと肩を下げた。そこへ、漢方医師がフォローするかのように言った。

「あ、豚肉はいいです。食べてけっこうです」

……豚肉? 何故豚肉だけ?

一瞬不自然な空気が流れたが、ともかく豚肉はアレルギーなどを引き起こす率が極めて低いとかいう説明があり、こちらも素人なのでそういうものかと何となく納得して帰ってきた。それから今日までの一週間は、さながら豚、豚、豚の豚祭りといった様相を呈した。ある時はポークソテー。ある時はミンチ肉。またある時はソーセージとあらゆる形状の豚を食い尽くし、もちろん三度三度漢方薬を飲み、痒みと熱がひどいため両の腕に隙間なく「熱さまシート」を貼ってどうにか眠った。

そして、現在。ゴールデンウィークの終わりと同時に、一回分を残して漢方薬も尽きた。症状はというと、驚いたことに快方に向かっていた。まだ若干の痒みや、掻きむしった傷は残っているものの、熱さまシートや氷なしで、現在パソコンに向かっている。わずかな熱や発汗でも命取りになるので避けられた携帯ゲーム機も、ほんの少しだが触ることができた。何よりも、風呂に入れるし、夜まともに眠ることができる。一週間前の地獄と比べると大変な差である。これもひとえにO先生と、中国四千年の知恵のおかげであって、今の中国がどんな国であろうと、漢方薬というのはなかなかに侮れない。もし何かあった時には、ひとつの手段としてこういうものの存在を覚えておいて損はない。それから、豚肉だ。あらゆる食品に見放された時でも、豚肉だけは側にいてくれるということを今回学んだ。全く持って素晴らしい存在である。今後は特に贔屓にし、何キロもの豚を人生賭けて消費していきたいと思う。


投稿者 nekozo : 2008年05月07日 02:05

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