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2005年07月23日

TM TAPE!

今日、妹から電話で「あたしがTM○○○ワークの熱狂的なファンだったってこと、しょっちゅうワンパラに書くから、親戚中に広まってるじゃない!」としかられたので、これはきっともっと書いてほしいのだと解釈することにした。

そこで今回は1985年頃、下関の実家での話。

当時、ぼくが17歳ぐらいで、妹が中学校に上がったぐらいの時だったと思う。妹はおよそ小遣いを最後の一銭まで小室哲哉の印税に捧げている最中だったので、CDはもちろんのこと、まだ目新しかったライブやプロモ映像のビデオも一通り買っていた。何しろ小室哲哉の名前がついているというだけで、当時話題だったEOSのkomuroバージョンのキーボードも買っていたぐらいなのだ。(EOSが何か分からない人のために簡単に説明すると、EOSとはサイボーグ手術を受けたバカでかいピアニカみたいなものである。)その勢いを思い出すにつけ、おそらく当時、小室が毎日食べていたもののうち、少なくても朝食のロールパンぐらいは全部妹が払っていたとしてもおかしくないと思う。

部屋はもちろんポスターだらけであったし、ギタリストが書いた小説(イヌがしゃべるやつ)も当然持っていたし、小室哲哉がプロデュースしたという触れ込みのファミコンのゲームまで買っていた。——ちなみにこのゲーム初回限定版(まるで実際に増産されたかのような言い方だが、もちろん初回限定版以外存在しない)はアルミのケースに入ってきていた。ぼくも実際にプレイしてみたが、そのつまらなさときたら、脳死したゾンビでも退屈するほどの内容だった。数あるTM製品の中で、妹が当時リアルタイムで「買って失敗した」と認めたのは、後にも先にもこれだけだったので、そのすさまじさを分かってもらえると思う。

さて、当時大人気のTM○○○ワークはとにかくよくテレビに登場した。ベストテンや夜のヒットスタジオはもちろん、深夜の音楽番組にもひっきりなしに出てきた。妹としては当然このどれかひとつでも見逃せば命に関わることだったので、その番組を命に替えてもビデオ録画しなければならないのは、当然家族内で唯一ビデオが扱えるぼくの使命だった。万が一、予約録画にでも失敗しようものなら、即家庭崩壊につながりかねないので、TMがテレビに出る日の三日前には母親が念のため、いつも冷蔵庫のホワイトボードに大きくこんな感じのことを書いていた。

TM 7/24 8:00-8:52 ベストテン 録画:標準

当日になると、一時間ごとに妹と母親からちゃんと録画がセットされているかチェックが入る。そのたびに「大丈夫だよ、しつこいな!」と自信満々に言いながらも、こっそり何度か心配でビデオをチェックしていた。あの頃、ベストテンが始まるときにぼくほど緊張してビデオの録画マークが点灯するのを見守っていた人というのもほかにいないと思う。

そんな中、あの恐ろしい出来事が起きた。

忘れもしない、遊びに行った先から妹の電話が入って、今やっている「ザ・ベストテン」で今日TMが1位らしいから、「絶対死んでも撮って」という連絡だった。そんな記念すべき映像を撮り逃したら、向こう一月ぐらい向山家は家族として機能しなくなってしまいそうだったので、ぼくはあわててテレビのところへとんでいき、必死に空のビデオテープを探した。

何しろ当時のビデオテープというのは一本2500円とかした時代だったので、ぼくらにはそうそう頻繁に買える代物ではなかった。だから、とにかく三倍モードで広告を抜き、わずかな空き部分にでも30分のアニメを、これまた主題歌、アイキャッチ、広告を全部抜いて録画したりしていた。だから、すぐに何か撮れと言われても、テープの空いている場所を探すというのが、実に至難の業だったのだ。

そうこうしているうちに黒柳徹子が今週の二位を発表していた。まだ二位の歌手が歌っている間に五分ぐらいは稼げるだろうと思ったら、二位はドリームズ・カム・トゥルー。出やしやがらねえ。何やら事務所が代わりに書いたようなコメントがひとつ読み上げられただけ。ぼくは額からボタボタ汗を垂らしながら、必死にビデオの巻き戻しのスピードが速くなるように念力を込めて祈りながら、心の中で「ちゃんと出ろや、ドリカム〜!!」と理不尽な怒りを爆発させていた。そして、黒柳が再びにこやかに言う。

「さあ、いよいよ今週の1位の発表ですが、その前にコマーシャル。」

ぼくに残された時間はこの1分間だけである。あのギラギラした回転ドアから後に華原朋美を捨てる男が出てきたときにもしビデオが回っていなかったら、妹が帰ってきたあとに修羅場が待っている。必死にビデオテープを巻き戻していたのは、そのテープに三倍で撮った三本の映画のうち、最初の一本だけは消してもいいものだったので、そこまで頭出ししようとしていたのだった。しかし、「高速サーチ」など夢のまた夢の当時のビデオ。無情にもコマーシャルが過ぎ去り、再び黒柳が登場。ドラムロールと共に1位のボードが回り始めてしまった。ビデオはおそらくまだ二本目の映画の途中である。今録画を押せば、撮るには撮れるが、ぼくが大好きな「ピラニア2 殺人魚フライングキラー」が消えてしまう。

家族の和か? ピラニア2か?

ぼくは涙ぐみながら、ビデオの録画ボタンを押した。
ちょうどタイミング良く、やさおとこ三人衆が回転ドアから出てくる。ぼくは深い安堵の息をついて、床に腰を下ろしながら、こうしている間にも刻一刻と小室のアップに塗り替えられていくピラニア2の運命を嘆いた。かくして無事にTMの演奏が終わり、最後の挨拶も録画したことを確認してから、ぼくはおもむろにビデオの停止ボタンを押した。そして、念のため、映像を確認しようと、少し巻き戻して再生してみた。

映ってる、映ってる。……映ってる……けど……あれれ!? 
全身の毛が逆立った。
……なぜか音が出ていない。

どこをどういじっても、まったくなんの音も出ない。画面では元気よく宇都宮が熱唱しているのに、スピーカーからはかすかなノイズが流れているだけで、まるでライブ中に突然カラオケがとまってしまった時の光GENJIのようだった(分からない人は30代以上の大人に聞いてください)。ふと気がついて、ビデオの裏を調べてみると、先日友達のデッキとダビングするためにコードをつなぎ変えた時、音声のケーブルだけ間違えてつないでしまっていたことに気がついた。

音なしTM。

許されるはずがない。
こんなもの見せたら腹いせに、妹にあれもこれも、隠し事を全部母ちゃんに暴露されてしまう。あわてて友達数人に誰か今のベストテンを撮っていなかったか電話で聞き回ったが、そんな都合のいいことはなかった。

妹は今にも帰ってくる。どうしよう。いっそ、自分で代わりに歌ってアフレコするか?
いや、落ち着け向山。わけわからなくなってるぞ。

今までの人生でかつてないほど濃密な五分間の思案の末、たどり着いた結論はひとつだった。

そう。今日、TMは出なかったのだ。

ぼくは証拠隠滅のため、ピラニア2のテープを元通りビデオ戸棚に戻し、何食わぬ顔でテレビを消して、手近なマンガを片手にベッドに寝ころんで待った。まもなく妹が帰ってきて、案の定、玄関からこっちへ一直線に走ってくる音がする。すごい足音だったが、ぼくの心臓の音でそれもよく聞こえなかった。

「TM撮ったぁ!?」
飛び込んできた妹に、ぼくは脈拍180でできる範囲の冷静を装い、読んでいるふりをしているマンガで顔を隠しながら何気なく言った。

「あ、TM出なかったよ。見てたんだけどね。残念だったね。」

妹の顔にものすごいショックと落胆の色が現れて、一瞬良心がバッキバキに痛んだが、それでもマンガを読み続けるふりだけはし続けた。

「そうか……」
妹はどうやら納得したようで、肩を落としながらも笑顔に戻っていた。ぼくは心の中でビデオの神に何度も感謝しながら、次からは必ずケーブルの接続を確認することを心の中で固く誓っていた。

「まあ、出なかったんならしょうがないや。じゃあ、一位になったとこだけ見る。」

「えっ?」


家庭一ヶ月間崩壊。

投稿者 向山貴彦 : 2005年07月23日 02:02