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2005年07月14日

殴られたりもしたけれど、私は元気です

学校での体罰というのが全面的に禁止されて久しい。
今では些細な叱咤でも、「言葉の暴力」を盾に親が学校に乗り込んでくるらしいので、先生もさぞかしやりにくいのではないだろうか。何人か個人的に知っている中高校の先生がみんな揃って頭を抱えているので、きっと想像以上に深刻な状況なのだと思う。

何しろ「このバカタレ! 西川のスカートにハナクソつけたのおまえだろ! 天誅じゃ! 歯を食いしばれ!」なんてしかり方をした日には、即、朝日新聞の三面行きになってしまいかねない時代である。だから思うに、きっとしかる時でも、最近はこんな感じになるのではないだろうか。

「これから君をしかりますが、これは私の個人的な判断によるものではなく、校内の総意を代弁するものですから、クレーム等は私個人にではなく、この紙に書いてある相談窓口の方へ平日9時から5時までにご相談下さい。とりあえず不足の場合に備えて、以降五分間の会話を録音しますので、その旨承知する書類にサインと捺印を御願いします。尚、私の叱咤によって精神的なショック等を受け、心のケアが必要となった場合、学校指定の心療内科でカウンセリングを受けることが可能です。また、PTSDと診断された場合、最高で月額15万円までの保証金が支給される保険制度も全校生徒に適用されているので御安心下さい。さあ、それではしかりますよ。」

ぼくの子供時代はまだ体罰禁止の世論が高まる前で、先生のパンチを食らうのなんて毎日の日課みたいなものだった。何しろ体育の先生はサングラスをかけて、「精神」という文字が彫り込まれた竹刀を持って歩いていた時代だから(実話です、念のため)、パンチ一発で騒ぎになったりするはずもない。逆にぼくらの方はぼくらの方で、ねちねちしかられるよりも、パンチ一発食らう方がよっぽど簡単だと思っていたので、むしろ体罰大歓迎ぐらいの勢いだった。

一度昼休みに教室にUNOを持ち込んで、それで小銭を賭けて博打をしていた時など、先生にグーで顔面を殴られ、数センチ足が地面から離れるぐらい吹っ飛んだこともあった。耳から血が出て、脳震盪起こしているのに、先生が言ったのはただ一言「ちゃんと保健室行けよ」。今から考えると、本当にデタラメな話である。——でも、その頃の中学生男子はみんなバクテリア並みにバカだったので、あっさり次の日にはすべて忘れてしまっていた。今の高校生なら逆ギレのひとつもして、先生のメールアカウントに500ギガのウィルスメールを送ったり、先生の奇行を合成したコラージュ写真と共に怪文書をPTAにファックスしたりするのだろうけど、当時のぼくらにはそんな知恵もなかったので、家に帰ってひょうきん族を見ることですべてを忘れていた。

テニス部の顧問だった大柄な先生の得意技はチョップ。——しかも、ただのチョップではない。わざわざ脳天を指で探って、頭蓋骨の継ぎ目のところを見つけ、そこを広げるように垂直チョップを入れるのである。これをされると、たいした強さのチョップでもないのに、なんだか立っていられないほどの衝撃が脳に伝わる。先生によると、普通にチョップをすると、自分の手の方が痛いから編み出した技なのだそうだ。今なら間違いなく懲戒免職だと思う。

ほかにも背中をたたくふりをして、女子のブラのホックをはずすという伝説的な技を持つ数学の先生、激怒するとあごにジェットアッパーを打ち込む英語の先生、二言目には「内申書の点数落とすぞ」というのが口癖の音楽の先生、校則に違反している女子の髪を切るのが生き甲斐の教頭……などなど、当時は中学生の人権なんてくそくらえな先生のオンパレードであった。

しかも、これらの行為はもちろん親だって重々承知している。しかし、それでも大半の親の方針は「このバカをもっと殴ってやってください」なので、そんなことでは抑制力になるはずもない。むしろ親の方が先生より過激な場合も多かった。

例えばしょっちゅう悪事を働いて職員室に母親を呼ばれていたKくんなど、さんざん先生にびんたを食らったあと、やってきた母親に職員室で怒りのボディーブロー連打を食らい、屈み込んだところへ顔面への膝蹴りでとどめをさされ、「おまえなんかもう死ね!」という実に飾り気のない言葉で追い打ちをかけられていた。今の中学生男子だとこういう目に合うと、もう完全に大人への不信感でニートになったりするのだろうが、Kくんはそんな繊細な神経を1ミリも持ち合わせていない人だったので、学校帰りに母親に肉まんを買ってもらったことで、すべてを忘れ去っていた。

思えば、本当におおらかな時代である。

いっぱい殴られたり、たたかれたり、4の字固めを食らったりしたけど、振り返ってみても恨み一つ残ってないので不思議だ。先生に体育館の床にパイルドライバーでたたき落とされたことも、今となってはただただいい思い出である。
体罰がいいとはさすがに思わない。でも、中学生時代の自分を振り返ってみて思うのは、ペレストロイカがスパゲティの種類だと思っているような男子生徒に何かを仕込もうと思ったら、直接感覚に訴えるしかないような気がするのも本当だ。

何しろいくら言葉で説明してみても、自分のママチャリに「ビビルンガーZ改」という名前をつけているような15歳の生物には、届こうはずもないと思うので。

投稿者 向山貴彦 : 2005年07月14日 00:30