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2005年06月25日

ハツカレでオツカレ

久しぶりのワンパラのお題目——本日は「少女漫画」。

まず最初に叱咤されることを覚悟で書くが、ぼくは十代の頃、基本的に少女漫画をバカにしていて、ほとんど読んでいなかった。ジャンプ全盛時代に育ったものだから、マンガといえば、近所の番長を倒すところから始まって、最終回では全宇宙を統治する暗黒生命体と戦う主人公が出てくるものしか読んでいなかったのである。

読んだことがある少女漫画といえば、妹が持っていた「天よりも星よりも」と「BASARA」、それにおきまりの「BANANA FISH」ぐらいである。公平に見て、確かにこれらは当時も面白いと思っていた。——しかし、女の子なら即座に気がつくと思うが、これらはどれもどちらかといえば少年漫画よりの少女漫画。いわゆるドジでおっちょこちょいな普通の女の子(異様なほどかわいいことを除けば)が、無体臭・微性欲の背の高い黒髪の男子と初対面では悪印象を受けながらも、次第に惹かれ合い、やがて2巻から3巻の間のどこかで登場する髪の色が白い、少し悪っぽい男と三角関係になっていくコテコテの少女漫画ではない。

(緊急注:日本中の女性を敵に回す前に早めに断っておきますが、ぼくは今ではピーチガールのサエがペラペラになっているイラストをうろ覚えで書けるほど当時のことを反省しています。だから、その剃刀をポストに入れる前にもうちょっとだけ読み続けてください。)

確かにひどい偏見で少女漫画を見ていたことは認めざるを得ないが、これはある意味仕方がないことだとも思う。何しろ十代の男に少女漫画の世界観を受け入れろと言っても、土台無理な話である。何しろ、出てくる男性にことごとく一切感情移入ができない。それどころか、男性にすら見えない。宇宙人でももう若干共通点がありそうなほど甚だしく自分たちと異なる生物が、ヒロインに「男の子ってみんなこうなんだー」と言われるのを見ていると、火炎放射器でホワイトベタで塗られたサラサラヘアーを一本残らず焼き払いたくなる衝動にかられるのだ。

どこがそんなに違うか分からない方のために、具体的な違いの例をいくつか下にあげておいた。

【男子の悩み】
少女マンガの世界:彼女とうまく分かり合えない
現実:スーパーマリオの4-4がクリアできない

【男子の照れた時の行動】
少女マンガの世界:はにかみながら、「まいったなあ、かなわないや」とか言う
現実:無視して走って逃げ去り、一生嫌われる

【男子に起きる「うれしい出来事」】
少女マンガの世界:好きな子と両思いになれる
現実:ホームランバーが二回続けて当たる

【女子に嫌われる男子の行動】
少女マンガの世界:悪口を言う、喧嘩をする
現実:げっぷ、ゲームばかりする、盗撮

とにかく少女漫画に出てくる男子高校生に比べたら、スターウォーズのチューバッカの方がずいぶん親近感を憶えることができた。当時のぼくらからすると、少女漫画の世界はハリーポッターがリアルに思えるほどのファンタジーだったのである。だから、当然冷静に評価などできるはずもなく、主人公の目の中にいくつホワイトの点があるかを数えるぐらいしか楽しみを見いだせないでいた。

それから時を経ること十数年。

ねこぞうが少女漫画を山のようにスタジオの書庫に置いているので、数年前から読むものがなくなると、よく大量に少女漫画を抱えて二階に上がり、何時間も読みふけるようになった。「NANA」「彼氏彼女の事情」「ピーチガール」「恋愛カタログ」など、生半可な巻数じゃないものも片っ端から読破してしまった。恥を忘れてカミングアウトするが、今現在は「ハツカレ」と「ハチミツとクローバー」を読んでいる最中である。(注:男性のみなさんは今のところを何気なく読んでいると思いますが、ここは笑うところです。)

おかげで先日「おとなファミ通」なる雑誌に載っていた「男も面白いと思う少女漫画特集」をめくっていたら、紹介されるまでもなく、すでに掲載作品の半分ぐらいを読んでいることが判明。もう自分でも感心するやら、呆れるやら。
さっきも上のパラグラフでマンガのタイトルを入力している時、「彼氏彼女の事情」を「彼カノ」、「恋愛カタログ」を「恋カタ」、「ハチミツとクローバー」を「ハチクロ」と反射的に書いてしまい、我ながら成長したものだと思ったりもした。

少女漫画は面白い。
ほかのどんなジャンルのエンターテインメントとも違い、独特のノリと、奇妙な既視感があり、やたらと読者と作者の距離感が近いのも不思議だ。最近の作品は加えてテーマ性や社会性を強く持ったものも多く出てきている。男でも爆笑できるほど面白い場面も数多く登場する。少なくても、少年漫画に見劣りするなんてことは決してない。
何よりも、我々男性にとって、少女漫画はすべての女性が子供の頃からどのくらい日常的に悩んだり、考え込んだり、些細なことにも努力しているのかを思い知らせてくれる、最高の教科書である。

ぼくがほぼ一日の大半の思考を「ゼビウスの四面のスペシャルフラッグの出現位置」に費やしていた頃、同じクラスの女子がどんなに複雑で豊かなことを考えていたかに、今さらながら驚いている。当時、同じ班の女子から「男子は気楽でいいよね」と言われて反論したことがあったが——すみません。気楽でした。今にしてみれば、たぶん女子のみなさんが目が覚めて顔を洗い終わるまでに行う思考の量ぐらいで、ぼくらの一日分をまかなえたと思います。

いったい何をしていたのか、十代のおれよ、と今は心の底から後悔している。そんなに女の子にもてたかったなら——そんなに女の子の考えていることを知りたかったなら、なぜもっと少女漫画を読まなかったんだ! 「女の子が男の子にとってほしい理想の行動」の全パターンが網羅されている貴重な資料がこんなにあるのに、ボムの「モテる男になって今年の夏こそ彼女ゲット特集」で紹介されているフェロモン香水の購入を真剣に検討している場合か!
なぜ一度で良いから「ハツカレ」を読まなかったんだ! (まあ、もちろん当時まだ描かれていなかったという些細な問題もあるのだが。)

いいか、十代のおれよ:
女の子と二人きりになった時にどう声をかけていいか分からなくて、さんざん迷った末に 「つかぬ事をお伺いしますが」って話しかけたことがあっただろう。それじゃ通りがかりの武士だろ! そういう時に使える台詞なんか、どの少女漫画を開いても百万通りぐらい載っていたのに、なんで 「つかぬ事をお伺いしますが」なんだよ! この大たわけが! 今書いてても恥ずかしいわ! とりあえず「もてない」と嘆く前にせめて「愛してるぜベイベ★★」ぐらい読んでおけって言うんだ!

今なら自信を持って言えるが、敢えて、すべての男性に少女漫画を薦めたい。

ベジータがスーパーサイヤ人になれるかどうかをぼくらが真剣に心配していた頃、同じ年齢の女性たちは「どうやったら本当に好きな人と分かり合えるか」みたいな話を読んでいたのである。これでは百年かかっても女性に適わないはずである。せめて今からでも遅くないので、とりあえず「ハツカレ」あたりをとっかかりに、底知れぬ少女漫画の世界を覗きに行こうではないか。
そしたら、少なくても通りがかりの武士にはならなくてもすむはずだ。

(追伸注:ただし、もしあなたが普段ワンカップ大関を片手に無精ひげを生やしているような三十代のおじさんなら、「ハツカレ」を買う時には上下を「週間朝日」で挟んで渡し、あからさまに娘へのプレゼントだと思われるように、赤い包装紙でギフトラップしてもらうぐらいの配慮は必要だ。中学生の時に「アクションカメラ」を買った思い出がよみがえるかも知れないが、ことはもっとはるかに深刻である。何しろぼくが書店のカウンターに座っていて、もし自分と同じようなやつが「ハツカレ」既刊六巻を全部抱えてうれしそうにカウンターに現れたら、間違いなく通報すると思う。)

投稿者 向山貴彦 : 2005年06月25日 00:38

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