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2005年06月27日
矢野くんのアドバイスがほしい
本日、「僕等がいた」七巻まで読破。
赤面率89%を誇る「ハツカレ」より、こっちの方が赤面したのはなぜだろう。
なんというか、まず表紙。表紙がどの巻も微妙にフォグマシーンがたいてあって、マックロクロスケの白いやつみたいなのが画面のあっちこっちに浮いている。その中に主人公と彼氏が立っているわけだが、この演出は三十四歳の男性にはあまりにまぶしい。三十四の男性の目から見た世界はどちらかというとフォトショップのセピアフィルタを「強」でかけたあと、「ぼかし」を三段階ぐらい乗せた世界である。こんなに世界がキラキラして見えたのは、個人的には六年前に輝度がぶっ壊れたLCDディスプレーでやむを得ず一週間仕事をしていた時ぐらいである。一巻の表紙などは金色の野原に朝日のようなまぶしい光が差し込む中、二人がはにかみながら立っている。どこなんだ、そこは? ガンダーラか!?
でも、考えてみれば初恋なぞしている時には、世界はこう見えていたような気もする。(もっともふられたあとにはフォトショップの「ゆがみフィルタ」で「中心から外に向けて円形状にゆがむ」をピクセル値最大にしてかけたように見えたが。)
ここのところ、少女漫画ばかり読んでいたこともあり、なんだかすっかり頭が柔らかくなってしまって、今や冬ソナでも見ることができうそうな勢いの柔らかさである。
何しろ以下のようなナレーションが恒常的に登場する世界を読んでいるのだ。
「彼と出会ったのはきっと運命。もし違うというならあたしは運命なんか信じない。」
こういう言葉が主人公の心をかすめるたび、スクリーントーンが舞い踊り、21ポイント以上の太ゴシック体で文字が浮かび上がるのである。二週間ほど前に読んだ「最強伝説黒沢(注1)」にも、似たような手法が用いられるところが何度もあったが、こっちのナレーションといったらこんな感じである。
「情念がこもる…! 逃げ場のない熱が積み重なる… 何年も何年も…ヒートアイランド現象っ…! 温暖化! 人生の温暖化! 今じゃそれが進み……砂漠化!」
もし人類が滅んで二百万年ぐらい経って、どこかの宇宙人が地球に発掘に来て、古代遺跡の中からこの二つの作品を発見したら、絶対にそれらが同じ国の、同じ時代の、同じ生物を主人公にした物語だと気がつかないと思う。ギリシア先史時代の文献と日本の古事記だってもう少し共通点はあるだろう。こうなると、どっちも面白いと思える人間の脳の許容力にひたすら感心するだけである。
「僕等がいた」に出てくるヒーロー矢野君はモテモテの高校生男子。スポーツ万能、成績も良く、容姿は端麗で、言うことがいちいちかっこいい。ぼくら一般男子からすると、市中引き回しの上、ハリツケ獄門にしてやりたい存在だが、よくよく読んでみると、矢野くんがそれだけモテる男になれるのもあたりまえで、どうやらこの学校、試験らしきものが年に一回ぐらいしかないのだ。年中文化祭はやっているみたいだし、毎年夏祭りも近所で必ずやるようなのだが、受験勉強らしいものは一切していないところを見ると、極端に偏差値が低いのかもしれない。それならいつも遊んでいる矢野君が試験でいい点をとれるのも合点がいくというものだが、そうなると心配になるのは主人公の女の子のほうである。何しろ、この女の子、第一話からいきなり数学が0点である。たぶん実際に0点をとった主人公というのは、昭和五十年代ののび太以来、漫画界初の快挙なのではないだろうか。——彼との出会いが運命かどうかは分からないが、とりあえず恋愛のことはおいといて、そろそろ受験勉強を始めないと間違いなく近い将来、二人とも人生が「温暖化」すると思う。
でも、そこはぐっと気持ちを呑み込んで、もう一度純情だったあの頃に戻って、素直に永遠の愛を信じてみたいという気持ちにならないわけでもないのだ。ただ、問題はうちの学校には年間六回の試験がある上に、文化祭は一年に一回しかないので、たぶん矢野君ほど主人公にアプローチする機会がないと思うのである。おまけに何らかの病的原因で矢野君のように突然空が見たくなったとしても、屋上は雨漏りのために出入り禁止である。ベランダなんか老朽化して、下手に出たら崩落しかねないので、ロープがはられている。これではどこで主人公が来るのを待っていればいいのか分からない。
おまけにうちの地元の夏祭りは名前が「ばかん祭り」である。ロマンチックという言葉に対義語があるとしたらたぶん「ばかん」だと思うので、そこでもあまりラブラブは期待できない。ほかに空が見えそうなところと言ったら近所のサティの屋上だけだが、ここもよくおばさんが風呂敷広げてぬか漬けを売っているので、微妙に永遠の愛と結びつかない。
矢野君、助けてくれ。現実は厳しい。
(注1)
「カイジ」「アカギ」などを描いている当代きってのストーリーテラー福本伸行が今まで物語界にまったくいない、でも、現実の世界にはやたらいっぱいいると思われる44歳独身のしがない男性主人公を描いた、ある意味衝撃的作品。おそらくこの世で少女漫画から一番正反対の位置にあると思われるマンガで、恐ろしいほどの正確さで独身中年男性の心理を描いているので、少女漫画と並んで女性に逆おすすめ……しようと思っていたのだが、あとから苦情のメールでアドレスがパンクしてもいやなので、やんわりと注の中で紹介するだけにしておきます。
投稿者 向山貴彦 : 2005年06月27日 00:42