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2005年06月05日
(残念ながら)嘘のような本当の話
まったくもって、やってられません。
面白い物語を書こうと思って、いっしょうけんめい頭をひねり、一ヶ月かけてある「不思議な事件」を思いついて、「うむ、面白そうだ」と思いながらふとブラウザでYahoo!ニュースを開いてみると、「全国のガードレールに25000件以上の謎の金属片」なんていう記事が載っているのが目に入る。
どう冷静に考えても、ぼくの考えた「不思議な事件」の百倍ぐらい不思議である。
というか、ここまで突拍子のない話を小説にしてしまうと、いくらうまく理由付けをしても、かえって嘘くさくなってしまうというものだ。「25000件? 作者バカだなあ。200件ぐらいにしとけばまだリアルなのに。」なんていう読者の声が聞こえてくるようだ。
でも、現実には200件ではなく25000件なのである。
あり得ないような新しい凶悪犯人像を作ってみよう、なんて思ってちょっと現代風の変わった殺人鬼を考えて満足していると、ニュースで自分のことを「王子」と呼んでいる、想像を絶するようなキャラが逮捕されている。しかも、あっちこっちで何年にも渡って、執行猶予中に監禁事件を働いているとだという。こんなに長くこの犯人が野放しになっていた原因というのが、ひとつの役所がもうひとつの役所にファックスをし損ねたことが原因だというのだから、あり得ない。
これがもし物語だったら、読者のほとんどが「その前に逮捕されるだろう」と突っ込むだろうし、「ファックス送り忘れちゃった」なんてオチを出したら出版社に「金返せ」電話殺到である。そもそも編集者が一言「向山さん、いくら役所でも半年ファックス届かなきゃ問い合わせるとかしますよ。あり得ません。」と言われてボツになるのが関の山である。
そうかと思うと、実の娘のわいせつ写真を仲間に写メールしていた父親がいる。
……書けません。こんなキャラ。書きたくないし、書こうと思っても、犯人の心理ががさっぱり分かりません。いったいどういう動機を出せば、こんなおぞましい蛮行を説得力あるものにできるのか、お手上げです。「ハンニバル」の生みの親のトーマス・ハリスでも、「こんな人いませんよ」と否定しそうだ。
また、こんなシーンを想像してほしい。ハッキングもののミステリーで主人公が校内のネットワークに侵入して、パスワード入力画面にぶつかる。ハッカーたちは頭を付き合わせて考える。一人が言う。「校長の名前じゃないのか?」「ああ、そうだよ。パスワードって言ったら校長の名前だよ。」
——いいえ、断じてそんなことないでしょう。今では暗号化された13桁とかのパスワードが普通の時代。
この時点で全読者、「いくらなんでもそんな安易なパスワードの学校、今時ないだろ!」と本を壁に投げつけるはずです。
まあ、現実にはあるんですけどね、北海道に。
9/11のテロ事件が起きてからこっち、もはや毎日のニュースで起きていることの方がよほど小説の世界よりもフィクションに思えてならない。国連決議も無視した、嘘の動機で始まった戦争で、なんの罪もない市民が毎日死んでいるのに、もはやそんなニュースになれて、「また自爆テロか」と思える異常な世界を、ぼくはとても小説で描く自信がありません。
9/11以前にもし「ダイ・ハード4」でハイジャックされた飛行機が高層ビルに突っ込んで、ビルが半分に折れて崩れるシーンを撮ったら、観客のほとんどは「やりすぎ」といって笑い、専門家はこぞって「飛行機をビルに突っ込ませるなんて至難の業で、普通は不可能」と批判するだろうし、別の建築家は「今の近代高層建築は飛行機が突っ込んだぐらいで根本までくずれませんよ」と一笑に付すに違いない。さらに映画を見に行ったほとんどの人は、いくらテロリストでも、自分の命ぐらいは惜しいと思うに違いない、と考えるのではないだろうか。
北朝鮮の拉致問題……脱線事故……集団ネット自殺……
AERAの記事の方が、SFマガジンよりも信じがたい時代である。
何を書いても、現実の衝撃に及ばないこんな時代。せめて物語の中では一抹の正義と、かすかな希望を失わずにいたいとは思うものの、Yahoo!ニュースで目を疑うような記事を読むたび、果たしてどこまで自分がその「希望」を信じることができるのか、毎日不安に思っている。
何しろぼくが子供の頃にはゾンビと一緒に踊り、チンパンジーを飼っていた、世界最高のロックスターが、今や宇宙人みたいな顔で幼児虐待の容疑で裁判にかけられているのだ。そんな冗談のようなニュースを毎日見させられていると、時々、本当にフィクションなんてまだ必要なんだろうかとさえ、思えてしまう。
投稿者 向山貴彦 : 2005年06月05日 19:58