星一徹がセクハラや家庭内暴力を気にせずに娘の作った食事を床にぶちまけていた時代が過ぎ、世は正に男性軟弱化時代。かつて草野球と空き地のケンカで育った男の子達はすっかり年老いて、世の中核を握るのはビックリマンチョコ世代となり始めている。こんな時代なので男も料理のひとつぐらいできないといけない。 かつて、みそ汁がお湯にみそを入れたものだと思っているような料理知識や、すいかを半分に割るために二階の窓から地面に向かって投げるような料理技術が男性の間でまかり通っていた時代は終わった。今の男性たるもの、ローリエの葉とタピオカぐらいの見分けはつかないと話にならない。ペレストロイカがスパゲティーの種類だと思っている子ギャルに対抗して生き残るためには、これからは男でもヒラメとカレイを瞬時に区別できる方法ぐらい知っておきたいものだ。(正しい区別方法:魚屋に聞く。)
そこで、今回は一人前の大人のフリをしているが、実は「だし」が粉状の茶色い調味料だと思っている時代錯誤な男性諸君のための男でも分かる料理基本講座。
まず、料理に必要なもの。 一番欠かせないものは台所である。 (今、これを読んでいるほとんどの女性が絶句しているのに対して、男性の大半は「ああ、そうかー」とか後ろ頭をペチッとたたきながら顔を見合わせてうなずき合っている。)
もしあなたが国内のアパートで一人暮らしをしている独身男性なら、まず部屋の中のどこかに台所があるはずなので、それを見つけてほしい。「そんなものはうちにはない」という人も多いと思うが、もう一度よく見てほしい。確か一年ぐらい前に入居した時、玄関の付近に水道の蛇口の着いた銀色の台みたいなものがなかっただろうか。近隣のピザ店全種類の空き箱と、二週間ほど前から異臭を放ち始めた生ゴミの袋をどけて、引っ越し以来動かしていない段ボール箱の後ろを見てみよう。(ついでに引っ越した日に買って以来忘れて、すでに芽が出ているプリンも捨てるようにしよう。)
はい。それが台所です。 いいえ。靴を置く台じゃないです。それは毎朝あなたが読みもしないのに取っている朝日新聞を一年に渡って詰め込んだために、すでに発酵が始まっている玄関先の木の箱のことです。
言いたいことは分かります。今は一見、とても料理と結びつかない場所に見えるかも知れないが、きれいに掃除をして道具をそろえると、これが食事が製造される場所になるのである。 (いいえ。台所というのは水を入れておくとお湯になる瓶のことではありません。あなたは知らないかも知れないが、食事はお湯を入れて三分待つ以外にもいろいろと作り方があるのです。)
とにかく台所を片づけないことには始まらない。かつては掃除というと雑巾とバケツが主流だったのだが、今は化学雑巾とか万能クリーナーとか電気掃除機とかいろいろ便利な掃除道具が揃っている。だが、残念ながらこれらでさえ、あなたが今直面している状況の前では無力だ。掃除道具はいろいろあるが、ここであなたにお奨めしたいのはたったひとつである。
リフォーム会社。 エロビデオの通販に混ざって時々郵便受けにチラシが入っているので、その番号に電話してみよう。十五万と二日ほどであら不思議。ゴキブリが逃げるほど不潔だったあなたの台所がまるで新品のように早変わり!
次に有効なのは引っ越すことである。引っ越しが大変ならとりあえず同じアパートの隣の部屋に移ろう。たいていは隣も台所は同じような使い方をしているものだが、空き部屋になった際に大家がすでにリフォームしている可能性が高いので安心だ。ちなみに新居に着いても荷物を片づける必要はない。二日ほど経てば、また確実に引っ越すことになるからだ。
台所がすっかりきれいになったら、次は調理道具を揃えることである。代表的なものは鍋、フライパン、菜箸、包丁、まな板、炊飯器などである。どうしてもお金がない場合はとりあえず鍋と包丁とまな板だけでもよい。まずはこれを買ってきていただきたい。売っている店が分からない場合は近くの交番でお巡りさんに大きな笑顔で「包丁を売っている店を教えて下さい」と聞くようにしよう。この際、怪訝な顔つきをされたら、すかさず「最近、無性に何かを切りたくて」とうすら笑みで付け足すようにすると、うまくいけば、もう死ぬまで二度と料理などしなくてすむかもしれない。
調理器具が揃ったらさっそく調理を始めたいところだが、残念ながらそれは次回以降になりそうだ。 ――なぜかって? それはあなたの家にある唯一の食材が、昨年の暮れに間違えてベッドと壁の隙間に落として以来、その位置で四ヶ月間忘れられて、新緑に染まっている肉まんだけだからである。 2000/3/23 |