遺伝子レベルの誤解

 この季節になると、毎年必ず女性のみなさんに提案したくなることがある。もしあなたが三十代以上の男性で、特に既婚者なら、きっと今、同じことを思っているはずだ。
 クリスマスはいい。もちろん日本人の若者の多くがイエスキリストをパンクロックのバンドだと思っていることを差し引いたとしても、クリスマスはいい。楽しいし、お祭り気分になるし、一年のしめくくりが始まった感を与えてくれる。きれいなイルミネーションを無料で見られるのも悪いことじゃない。
 問題はあの「プレゼント」という悪しき習慣だ。あれがどうにも我々男性には解せない。
 女性に「何が欲しい」と聞くと、「なんでもいいよ」「何もいらないよ」と必ず答えるのに、それを真に受けて自分が心からいいプレゼントだと思っている「電動ドリル&ドライバー92点セット」を贈ったら激怒されるのだから意味がわからない。「なんでもいいよ」と言ったではないか! ましてや「何もいらない」を真に受けて、クリスマス当日に一日中プロ野球の中継をビール片手に見ていたら、それが元で離婚になったりするから実に不可解だ。
 男性というのは誓って言えるが、遺伝子レベルに「プレゼント」「誕生日」「おしゃれ」「インテリア」「掃除」というのがどれも存在しない生き物である。男性が生まれつき持っている遺伝子レベルの知識は「ゲーム」「酒」「好きなプロ野球チーム」と「何も着ていない女性への興味」だけである。

 十数年ぶりに再会した男性同士の会話を聞いたことがありますか? 女性同士がもし十数年ぶりに再会したなら、それはもうさぞかし感動的な一瞬になることでしょう。「元気だった−!?」「変わらないわねー!」熱い抱擁の後、きっと今のお互いの家族構成や、子供の写真などを交換して、若かりし日の思い出話などに花を咲かせるはず。しかし、典型的な男性が十数年ぶりに再会した場合の会話はこんな感じである。

A「よう」
B「よう」
A「ところで、FFの新しいの買った?」
B「ああ。おれまだPS3買ってないんだよ」
A「おれもなんだよ」

 AとBは大学時代に一緒に二年間大学に通い、お互いの家に毎週のように泊まっていた仲で、互いの結婚相手とも面識があり、年賀状では子供の写真も交換している。しかし、彼らが最初に会った時にする会話——それは所詮ゲームの最新作の話で、しかもここでは割愛しているが、このあと二時間、この話が続く。これが男性という生き物の本質なのだ。

 女性のみなさんには冷静に考えてみて欲しい。本当にこんな生き物に「繊細で愛情に満ちあふれた、感動的で、それでいて適切な値段のクリスマスプレゼント」など買ってもらうことを期待するべきだろうか。男性が「繊細なもの」といって思い浮かべるのは、流体軸受けの2.5インチハードディスクである。「感動的なもの」と言われて思い浮かぶのはワールドシリーズのバックネット裏のチケットだ。「愛情に満ちあふれたもの」なんて注文をしたら、それはもう、犬に「もっと金目のものをくわえてこい」と命令するようなものである。

 こんな生き物に指輪とか、ドレスとか、そういう複雑なものを期待するのはいい加減やめようではないか。どうせ指輪はドクロが彫られたものを贈られるのが落ちだし、ドレスは紫のシルクにラメの入った七色の星が全身にちりばめれたものになるに決まっている。しょうがないのだ。我々男性はすべての美意識を仮面ライダーとロボットアニメから学んでいるのだから、指輪でも財布でも、押すと飛び出す仕掛けがいくつついているかでしか、価値が計れない。典型的な男性が着けている腕時計を思い出して欲しい。そう。あのごてごてといろんなスイッチがついた自爆テロの時限装置みたいなあれだ。信じられないかもしれないが、あれは男性は好んで買っているのだ。なぜなら、あれは外観が:

1、車の計器類に似ている
2、使う必要のない装置が20種類以上ついている
3、名前がロボットの必殺技に似ている
4、なんとなくどこかを押すと変身できそうな気がする

 仮にその腕時計に時間を表示する機能がなかったとしても、おそらく大半の男性は気にも留めない。それよりも0.00001秒まで正確に測れるストップウォッチが着いている方が大事なのだ。もちろん0.00001秒を測る必要があるのなんて、分子レベルの核融合実験中の科学者ぐらいしかいないだろう。でも、関係ない。大事なのは「おれのストップウォッチはあいつのストップウォッチより性能が3桁多い」ことなのだ。

 だから、もしあなたの愛する男性がクリスマスにパソコンのRAMを二枚買ってきて、「これでメモリがMAXになるよ」などと言ったとしても、その離婚届にハンコを押すのをちょっと待ってあげてほしい。きっと彼なりに考えた末の事なのだ。もちろん考えていたのは通勤電車で最新のRPGのレベル上げをやりながら、iPodで「サイボーグ009」のオープニングを無限ループで聞いている間かもしれない。でも、それが彼の「思案」の限界なのだ。そんな生き物とあなたは生涯連れ添うことを約束してしまったのだから、ここはもう素直にあきらめてほしいと思う。
 ただ、どうしても納得がいかなかったら、まあ、その時は昨年もらった電動ドリルが初めて役に立つかも知れない。

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