ハロウィンは日本に来たか

 近頃、日本でもすっかりハロウィンが定着しつつある。
 10月初旬あたりからお店にはグッズが並び始め、ちょっとオシャレなカフェやショップは軒並みハロウィン仕様に変わり、オレンジと黒の飾り付けに骸骨やカボチャが舞い踊る。きっと、そろそろ我が家にもハロウィンを取り入れたいなと思っている日本人も増えていると思うのだが、「けっきょくハロウィンって何するの?」と思っている人がほとんどではないだろうか。
 最近よくそんなことを尋ねられるのだが、困ったことに本家のアメリカやヨーロッパでもそれが今ひとつはっきりしないので、毎回答えに窮している。

 伝統的には子供たちが仮装し、近所の家から家へ「Trick or treat!(菓子よこさないと化かすぞ)」と言って回って、紙袋一杯の大量のお菓子をもらうのがもっとも一般的な行事だ。アメリカに住んでいた七十年代、ぼくもその列に加わって、十人ぐらいの魔女や狼男やお化けと一緒にスパイダーマンの格好で10月最後の夜は息を切らして走り回っていた。
 まだその頃はアメリカも平和で、知りもしない家のドアのチャイムを鳴らして、片っ端からお菓子をもらって回るのにも抵抗がなかった。ぼくの住んでいた町にはさらにローカルルールみたいなものがあって、ハロウィンの夜の6時〜8時はどこの家も大量にお菓子を用意して、子供が来たらどんな見知らぬ子にもひとつかみのお菓子を袋に放り込んでやるのが約束事だった。当然我が家もお菓子を用意していて、ぼくが外をかけずり回っている間、母親は無限に鳴り続けるチャイムを返事するために、巨大なお菓子の袋を持って、玄関の内側で待機していた。
 窓から外を覗けば、それはもう異様な光景で、住宅街の暗闇の中、いろんな種類の小さいお化けがかぼちゃ型の懐中電灯や蛍光塗料の塗られた緑色の仮面をかぶって縦横無尽に庭を横切っていくのが見える。ものすごく精神年齢の低い宇宙人に町を侵略されたら、きっとあんな感じなのではないかと思う。
 しかし、残念ながら近年は「危険」ということで、trick or treatはどんどん規模が小さくなっている。良く知っている近所の家を親同伴で回るだけでは、どうにもあのtrick or treatのカオスな楽しさは出ない。このままではハロウィンはもっぱら「ソウ」の続編の公開日になってしまうのではないかとハロウィン好きのぼくは心配でしょうがない。

 trick or treat意外にも一応ハロウィンに関連する遊びはいくつかある。apple bobbingというなんとも奇妙なゲームがそのひとつで、水に浮かべたたくさんのりんごを口でくわえて取り出すゲームで、正気を失った人が考えた金魚すくいみたいなものだと思ってもらうと分かりやすいかもしれない。
 お化け屋敷もハロウィンの時期、あっちこっちに乱立する。ショッピングセンターが臨時に作るものから、カーニバルスタイルのものまで、どこの町にもひとつかふたつは出現して、ハロウィン終了と同時に一夜にして姿を消す。ぼくが住んでいたアパートの近くの路地でも臨時のお化け屋敷を大学生たちがやっていて、これが手作りのくせにやたらと怖かった。相手は子供だというのに、大学生たちの手加減のなさっぷりがすごくて、中盤で登場する内蔵がはみ出したまま、鎌を持って追いかけてくる死体などは、ぼくの人格形成に一役かっていたような気がする。
 今でもよく覚えているのは、ハロウィンの翌日にその路地に行くと、路地は何事もなかったかのように元通りの路地になっていて、隅っこの垣根の下に一枚だけオレンジ色の飾りが巻き付いていたことだった。「あれは夢だったのか?」と思うほどきれいに姿を消したお化け屋敷が、余計に長くぼくの心に余韻を残した。

 楽しかったのは学校や家で、親や先生がみんなで作ってくれた手作りのお化け屋敷だった。トイレットパーパーの搬出用ダンボール(超巨大)をドラッグストアからもらってきて、それをガムテープで貼り合わせて、家の中に小さな立体迷路のようなものを作り、そこを子供たちが一人ずつ順に通るのが主流のやり方だった。ダンボールの入口には黒とオレンジのカーテンがかけられ、中にはところどころにかぼちゃのランタンが置いてあるけど、かなり薄暗い。子供がおそるおそるその中を進んで行くと、ダンボールに切り込みを入れた外側から、狼のグローブをはめたお父さんがふいに手を突っ込んでくる。
 ドバン! ギャーッ! で、ダンボールの中は走り回る足音でちょっとしたパニックとなり、外で待っている子供たちもそれを聞いて連動したように叫び始める。こうなるともう、いやでもハロウィンムード最高潮である。ダンボールの床にはわざとスポンジで作った段差があったり、小さな扇風機が生暖かい風を送り込んできたりと、けっこう凝ったミニお化け屋敷だった。もう少し周りの子供たちが大きくなったら、うちのスタジオでもぜひこれをやってみようと思う。あの時、ぼくに軽いトラウマを食らわしてくれた近所の大学生たちの熱意を見習って、それはもう本気の本気で怖い奴を。

 そんなわけで、その前準備として、今年は小さくハロウィンパーティーをしてみた。実に二十年ぶりのハロウィンだろうか。「絶叫仮面」のチビキャラたちをあしらったお菓子の袋と、1200円で買ってきた電池式のジャック・オ・ランタンだけのささやかなハロウィンだけど、まあ、何事もはじめの一歩から。

ハロウィン

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